2007年 09月 22日
月とバイク |
バイクの後ろに乗っかって、
ぽっかり浮かんでいる雲を見ていると、いつも不思議な感覚になる。
建物はどんどん後ろに流れていくのに、
雲は優雅に浮かんでいる。
映画の背景の中に紛れ込んだような特別な感覚。
切り絵を何枚も重ねたようなビルや家々。
上り坂や下り坂。
背景は光とともにぐんぐん過ぎ去っていく。
作り物の世界。
人々の気配はあるけれど、ほんとうに生活しているのだろうか。
様々な色の光が溢れる、東京の街。
雲はぽっかり浮かんでいる。
子どものころ、
夜に車で出かけたとき、
「どうして月はいつまでも付いて来るの?」
と質問したことを思い出した。
どんなに早く進んでも、
どこまで行っても、
月がずっと付いて来るのを不思議に思ったからだ。
「月は遠くにあるからだよ。」
ふぅん・・・
電線よりも、マンションよりも、
月はずっとずっと遠くにあるから。
それからというもの、
夜外に出ると、月の位置が気になって気になって、
いつもきちんと付いて来るのを確認していた。
歩いていても、
建物は追い越すことができるのに、
月の位置は変わらない。
走ってもぜんぜん無理。
理解するまでには少し時間がかかった。
母親と出かけると、
「摑まってるから連れてってね、」
と言いながら、
自分は空を見上げて歩くのが好きだった。
そんなふうに見上げていると、
吸い込まれてしまいそうな気がした。
空に。
あるいは目を瞑って、闇の中を歩く。
母親に完全に身をゆだねて。
「ねぇ、ぜったい手ぇ離しちゃだめだよ!」
バイクの後ろに乗っかって、
わたしは子どものころに味わった感覚を再び味わっているらしい。
空を見上げて雲の位置を確認する。
ずっとずっと遠くにある雲。
のんきに周りの景色を見て、
「あっちきれいだよ、」
と言って運転手が見てはいけない方向を指差したりしながら、
目的地まで連れて行ってもらう。
誰かに身をゆだねる、
あの安心な感じ。
道に迷っても、不安にはならない。
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by amatsubu
| 2007-09-22 00:00